2022.07.16
それは、1本の電話から始まりました・・・・
おそらく1960年代に製造されたと思われる、マツダの小型三輪トラックが岐阜県内某所にあると言うのだ。
しかも車庫に保管してあり、フレームシャーシなどの腐食も少ないとのこと。
問題は車庫の前には水路があり、接続道路は乗用車がすれ違いできない幅員3メートル程度であるとのこと。
通常の積載車でウインチ引き上げ作業では無理であり、towingレッカーでも無理な状況とのこと。
筆者が、この自動車リサイクル業界に入ったのは1990年代です。
その入りたての新人の頃に、草に埋もれて土に還りそうな状態のオート三輪や、山奥の自動車屋さんの工場裏に忘れられていた錆びだらけのオート三輪など、数台の廃車となったオート三輪を搬出したことがあります。
実際に走っている姿をみたのは、岐阜の大手運送会社のエスラインさんの支店で運行していた車体くらいでしょうか。
余談ですが、エスラインさんは70周年事業として、オート三輪を復活させたとのニュースもあります。
http://sline.co.jp/company/history_f1.html (エスラインギフへのリンク)
そんなオート三輪を搬出するのは、年間数千台の廃車を取り扱う弊社でも極めて特殊な案件でありました。
依頼を打診頂いた鈑金整備業の社長は「廃車じゃない、直して乗るんだ!」との意向です。
つまり、レストアしたいから、可能なかぎり現状維持のコンデションで運搬して欲しいと言う事です。
私たち廃車買取り業者はスクラップ前提ですので、搬出が困難場合は車両を無理やり引き出します。
本来なら受託する案件では無かったのですが…
廃車を意味する、ELV(End-of Life Vehicles)寿命が終わった自動車。
法令用語では、使用済み自動車。
私たちが廃車買取りをする目的は、リサイクルです。
リサイクルの三原則は、
Reduce(リデュース)
Reuse(リユース)
Recycle(リサイクル)です。
廃棄物発生を少なくすることや、製品や部品を繰り返し使用すること、まだ使えるモノを生き返らせること。
私たち近松商会の創業以前に作られた自動車が、再び生き返る!そのお手伝いが出来る!
とても興奮する話でした。
しかし搬出は、困難な状況でした。
搬出するにあたり現地の状況確認をしましたところ、車庫出入口の高さは比較的高いが接続道路とのレベル差が1メートル程度ありました。
また接続道路前の水路、幅員も約3メートルもお聞きしたとおりでした。
その水路の上部には電信電話線が走っており、作業に支障をもたらしそうでした。
草ヒロになりがちなT2000オート三輪ですが、車庫内にありコンデションは良い状態とは言え、一輪しかない前輪はパンクしていました。
フロントタイヤのブレーキは固着しておりブレーキを破壊しなければタイヤを回転させることは不可能な状態です。
また、デフオイルからオイルが漏れていたので、シール部の悪化からギア内部は湿気で錆びていると予想しました。
リアタイヤを取り付けるハブは固着しており、回転しないとも予想しました。
つまり無理やり引っ張れば、錆びて固着した可動部やギアを破損させてしまう恐れがあるのです。
車両を実測したところ、T2000オート三輪の全長約6メートル、全幅約1.8メートル、全高約1.9メートルでした。
重量は2トン程度だと思われるので、弊社の中型車に積載可能な大きさです。
困難な搬出作業をどうするのか?
困った時は、神様仏様下條様です。
2回目の下見に同行頂いた、下條社長との協議の結果、下記の方法で搬出を試みることになりました。
段差があり、車庫内での吊りシロは取りにくいが、まずは車庫入口までレッカーブームを伸ばして、フロント部を吊り上げる。
もちろん吊り上げるフロント部は、H鋼で下吊り支える事により損傷を防ぐ。
同時に、薄板鉄板とスケーターをリアタイヤに敷くことにより滑りやすくする。
フロントタイヤが浮いた状態で、ウインチ巻き上げ作業で車庫からゆっくりと引き出す。
電信電話線を越えたら、天秤棒を使用して吊り上げて搬出トラックに積載する。
問題は、接続道路を作業のために封鎖してしまうことです。
いくら田舎道とは言え、知らぬ顔で道路を封鎖するわけにはなりません。
そこで管轄の警察署にて“道路使用許可”を取得しました。
準備万端で、作業は進み・・・
無事に、レストアされる整備業者さままで運搬しました。
搬出作業を頂いた、下條組さまに感謝しかありません。
ありがとうございます。
(搬出作業にあたっていたので、画像は少なめ…)
本業の廃車買取りからの、レッカー作業ではありません。
レッカーとはWreckなので、衝突、破損、倒壊、故障 ひどく破壊されたもの、ぼろぼろになったもの、破壊された残骸からの意味です。
つまり、廃車を前提で運ぶことです。
JAFなどの故障した時に呼ぶ、ロードアシスタンスさんは、Towing serviceなのです。
towingとはロープ・鎖で引く、 引っぱる、 牽引するからの意味で故障したりして修理前提で運ぶことです。
本業とは違う、トーイングサービスを実施したのはY社長の熱い思いがあったからこそです。
自動車業界に生きる者として、まだ走りたいと言っている自動車を見捨てることは出来ないのです。
ハイドロマスター付きの、マツダT2000 オート三輪が復活する日くれば、このコラムに追加する事にします。
続編を、乞うご期待!
ただ・・・ いつになるのか?
気長に、待っていてくださいね(笑)
以上