2021.11.09
HFOとは、ハイドロ フルオロ オレフィン(Hydro fluoro olefin)の略です。
水素と、フッ素、炭素の不飽和有機化合物です。
目撃した人は、新車のボンネットを開けた人かもしれません。
ボンネットの裏に貼られたステッカーに【HFO-1234yf】と記載されています。
1990年代半ば頃まで、自動車エアコンの冷媒ガスは“CFC-12”(CFC:クロロ フルオロ カーボン)と言うガスが使用されていました。
“自動車エアコンガス”と言う名称より、当時は“自動車クーラーガス”と呼ばれていました。
おぼろげな記憶だと、冷気がヒヤっとしてよく冷えた気がします。
しかしCFC-12には問題があって「ガス漏れがする」「オゾン層を破壊する」と、いう特徴がありました。
このCFC-12は、よくガス漏れを起こしました。
当時の自動車エアコン用の配管精度が悪い事に加え、配管パッキンなどの分子よりもCFC12の分子の方が小さいので、使用年月とともにガスが抜けてしまうのです。
そのため、カークラーガスは街角のスタンドなどでチャージしてもらう事が多かったです。
自動車には、R12ことCFC12が使用されていましたが、業務用の冷蔵機などにはR502ことCFC-502なども使用されていました。
それが1985年(昭和60年)に、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が採択されて、オゾン層保護が意識されるようになりました。
1988年(昭和63年)の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(通称:モントリオール議定書)により、製造や使用が制限されるようになってゆきました。
この事により、1990年代半ばまでに自動車エアコン冷媒ガスは、“CFC-12”から“HFC-134a”(HFC:ハイドロ フルオロ カーボン)に代わっていったのです。
当時は代替ガスとも、呼ばれていました。
しかし1990年代半ばまでの新車販売時には、CFC-12が使用されていたので車齢により廃車となる頃の、2002年(平成14年)には「フロン回収・破壊法」が施行されました。
このフロン回収破壊法により、自動車エアコンガスも回収が義務付けられました。
2002年10月より“自動車フロン券”という後納の制度も運用されました。
ちなみに廃車時に支払う自動車フロン券の代金は2,580円で、コンビニでスマートピットを利用しての払い込み方式で、非常に取り回しが悪かったことを記憶しています。
CFC-12に代わり、HFC-134aになっていった自動車エアコンガスですが、これでメデタシメデタシと言う訳には行きません。
なぜならHFC-134aには問題があって「温室効果ガス」で、あるのです。
CFC12と違い、HFC-134aは「オゾン層を破壊しない」のですが、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、PFC、SF6などと同様に、地球温暖化につながる「温室効果ガス」なのです。
1997年(平成9年)に「京都議定書」にて、“温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減すること”を採択したことにより、HFC-134aの使用には責任ある管理が求められて行くことになりました。
自動車エアコンガスに関しては、2002年(平成14年)から2004年内(平成16年内)までは自動車フロン券により冷媒ガスの回収と破壊がなされました。
2005年(平成17年)からは“自動車リサイクル法”により、フロン回収破壊法と同様に回収と破壊がルール化されています。
自動車リサイクル券を確認すると、フロンガスの料金が記載されています。
現在、フロン回収破壊法は業務用エアコン機器に、自動車リサイクル法は自動車エアコン冷媒ガスに適応されており、“フロン類の放出の禁止”と“フロン類の破壊に関わる制度”が維持されています。
では“HFO-1234yf”は、どうなのでしょうか?
HFO-1234yfは、オゾン層を破壊しないです。
さらに、温室効果ガスとしても温暖化係数(GWP)は1未満と、HFC-134aの温暖化係数(GWP)1430より、とても優れています。
注意しなければならないのが、空気が混じると分解が進み“酢酸類”に変化します。
冷媒ガスでなくなり、10%の空気混合で約10日間で冷媒能力が低下します。
また、HFO-1234yfはの特性はHFC-134aと近く、沸点、臨界温度、蒸気圧力、冷却性能やエネルギー効率の差異も5 %以内なので代替ガスとしては申し分なさそうに見えます。
では何故、CFC-12に代わりHFC-134aになっていったように、HFC-134aに代わりHFO-1234yfに代わって行かないのでしょうか?
HFO-1234yfの問題は、わずかですが“可燃性”があることです。
国際規格(ISO/FDIS817)では2L(微燃性)となっており、特定不活性ガスです。
またフッ化水素が発生するので、鼻に突く刺激臭がします。
通常の取扱いなら、少し風通しの良い環境下ならば、そんなに心配しなくても大丈夫なレベルです。
問題なのは、フロント部分からの事故時にエアコン配管やコンデンサ損傷により冷媒ガスが漏れだした場合、HFO-1234yfは微燃性とはいえ可燃するのでエンジンの熱などで発火して被害が拡大する可能性も否定は出来ません。
ISO/FDIS817:2013(国際規格) | ||
CLASS 3 | 強燃性 |
①101.3kPa、60℃において火炎伝播を示し、 ②燃焼限界(LFL)3.5vol%以下 又は 燃焼熱19kJ/Kg未満 |
CLASS 2 | 弱燃性 |
①101.3kPa、60℃において火炎伝播を示し、 ②燃焼限界(LFL)3.5vol%を超え、 ③燃焼熱19kJ/Kg未満 |
SabCLASS 2L | 微燃性 |
①101.3kPa、60℃において火炎伝播を示し、 ②燃焼限界(LFL)3.5vol%を超え、 ③燃焼熱19kJ/Kg未満であり、 ④101.3kPa、23℃において最大燃焼速度10cm/s以下 参考:HFO-1234yfは、この区分に該当する |
CLASS 1 | 不燃性 | 101.3kPa、60℃において火炎伝播が確認されない |
事実、各メーカーの新型車はHFO-1234yfに冷媒ガスを切り替えて行く中で、ダイムラー社は新型CO2冷媒ガス搭載の車両を2017年に欧州でSクラスとEクラスに使用し始めました。
また、CO2冷媒ガスを使用しないモデルに関して、2017年より正面衝突で激突した場合にアルゴンガス発生装置にて、熱を持つ部分を冷却する装置を装備しました。
不都合なことに、自動車整備の面で考えてもHFO-1234yfを取扱いするには、今までと違う機器を準備する必要があります。
チャージバルブの形状は似ていますが、ネジ山が逆に切ってありますので互いに流用は出来ません。また、HFO-1234yfは非常に高価です。
冷媒ガス:200gあたり換算 | |
HFO-1234yf | 9,990円 |
HFC-134a | 689円 |
CFC-12 | 2,180円 |
某工場の味方モノサイトで値段を確認してみると、200gあたり換算で、HFO-1234yfは9,990円と、HFC-134aの689円の約15倍もの価格でした。
HFO-1234yfを使用しているスバルのレヴォーグ(VN5)の充填量は、375g~400gなので、19,980円になります。
HFC-134aを使用しているトヨタのライズ(A200A)の充填量は、400g~430gなので、1,378円になりますので、HFO-1234yfは割高に感じますよね。
そもそも、自動車エアコンが冷えるのは何故でしょうか?
エアコンが冷える原理は“気化熱”の原理を利用しています。気化熱とは、液体が気化する際に周囲の熱を奪う現象です。自動車エアコンの冷媒ガスは、配管と機器の間の全てが密封された中を循環します。
自動車エアコン内部で冷媒ガスは、 (1)コンプレッサー(圧縮機)
↓↓
(2)コンデンサー(凝縮器)
↓↓
(3)レシーバタンク(分離乾燥機)
↓↓
(4)エキスパンションバルブ(膨張弁)
↓↓
(5)エバポレーター(蒸発器)の、(1)~(5)の順番で巡ります。
冷媒ガスは(1)コンプレッサーで、高温高圧のガス状冷媒になり(2)コンデンサーに送られます。
外気の冷却風をフィン(網目)を通すことで、(2)コンデンサーで冷媒ガスを凝縮します。
凝縮された冷媒ガスは、(3)レシーバタンクでオイルとガスを分離させて低温高圧の液状冷媒となります。
低温高圧の液状冷媒は、(4)エキスパンションバルブで膨張噴射されて低温低圧の霧状冷媒となり、(5)エバポレーターで蒸発します。
この(5)エバポレーター内部で蒸発する際に、気化熱で周囲の熱を奪いますので温度が下がります。
温度が下がったエバポレーターに、送風機(ブロアファン)で空気を送り車内に流すことで自動車エアコンの役目を果たします。
(5)エバポレーター内部で蒸発した冷媒ガスは、低温低圧のガス状冷媒となり配管を通して(1)コンプレッサーに戻って行きます。
この(1)~(5)の順番を繰り返すことで、自動車エアコンは冷えるのです。
冷媒ガスの種類が変わっても、自動車エアコンの仕組みは変わりません。
エアコンの仕組みが変わらない以上、冷媒ガスの性能が良い方が効率よく車内を冷やすことができる訳です。
故に、冷媒ガスの選別は性能と価格が重視されてきました。
しかし近年では、環境への配慮が重要視される社会ですね
「HFO-1234yf」「R1234yf」とは、自動車のエアコン冷媒ガスです。
オゾン層の破壊もしないし、GWP(温暖化係数)1未満と優れています。
プロパン(R290)、ブタン(R600a)のような強燃性(クラス3)ほどではないですが、微燃性(クラス2Sub)で、燃焼速度が10cm/s以下と言え、燃えます。
しかし環境配慮の流れから、フルモデルチェンジの新型車の多くにはHFO-1234yfの冷媒ガスが採用されています。
従来のHFC-134aのように、自動車リサイクル法での回収義務は無いので、自動車リサイクル料金が少し安くなります。
冷媒ガスの出し入れをするアタッチメントが従来タイプと異なるので、整備業者さんは設備投資が必要です。
注意する点としては、事故時にHFO-1234yfが漏れると、車両火災につながる可能性があります。
自動車リサイクルの現場では、通気性の良い火の気の無い場所での作業が必須となります。
新ガスに変わって行き、環境負荷の少ないモノになるのは、良い事ですよね。
以上
私たちは、不要なお車を買取りしています
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